ミャンマー連邦における経営コンサルティング事業

                         NPO ザ・コンサルタンツ ミャンマー 理事長
            中小企業診断士  都築 治

1.海外における業務内容

(1)NPO ザ・コンサルタンツ ミャンマー(TCM)の業務内容
  特定非営利活動法人のTCMは、現在次のような活動を行っている。
 @人材の交流と育成 人材育成等の国際協力の促進を図る活動
   国内外における人材の指導と育成、ITや市場経済など国際化についての支援活動。
 A産業の振興と地域開発 環境保全に配慮しつつ、産業の振興と地域開発の推進を図る活動
   住民の生活改善に資するモノ作りとマーケティング活動の支援、エコツーリズム等
   観光地の整備と観光産業の育成。
 B経営・技術指導
   市場経済適応のための技術力等向上支援、マネジメント原理や会計理論・各種資格
   検定等の学習支援。

(2)具体的な活動状況
  @観光資源調査
    海外からの観光客を受け入れることは、外貨を流出させることなく外貨を獲得する最良
    の方法の一つである。また、観光客が増大することにより、各種インフラの整備が進む
    ことになる。この考えの下に、我々はミャンマーの各地を踏査し観光の可能性を探った。
    以下は実際に踏査し、宿泊したことのある都市または町である。
    ヤンゴン、ピィ、バガン、マンダレー、モンユア、シュエボー、ミッチーナ、バモー、ムセ、
    ラショ、ピンウールーウィン、メイッティーラ、カロー、カウンダイン、ニャウンシュエ、
    チャイット、バゴー、ンガバリ、チャウンタ、その他シットウェ、ミェイ。
  A地場産業の経営支援
    U Kyaw Aye & Daw Than Seinの家内縫製工場、シャン州ニャウンシュエ郡インチャン村。
    デザイン指導、品質管理、マーケティング指導等を平成15年以来、数次に亘って行う。
    バガンRoyal Golden Tortoise Lacquerwareのマーケティング指導、平成18年9月。
  BIT企業調査
    ミャンマーにおける有力IT関連企業15社の実態調査を行う。平成15年11月〜12月。
    インターネットの普及状況、パソコン等の活用状況、企業規模、社歴、具体的な事業内容、
    今後の事業展開等を経営者にヒアリング調査する。
  Cパソコン研修
    平成15年12月KMD研修室、平成17年3月TICC研修室 初級クラス・中級クラス
    講師長屋勝博、鎌田昭男、土井司、犬伏雄一
  D経済視察団の派遣
    平成8年以来中小企業診断士、中小企業の経営者を中心に10数回経済使節団を
    ミャンマーに派遣し、交流を深めている。平成12年3月の折りには、ミャンマー連邦
    情報委員会が我々の視察団をタイ国の農業大臣の訪緬と同格の扱いで、インターネット
    で海外に報道した。また、CLMTV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ヴェトナム)
    2004年12月開催の第1回の見本市には、VIP扱いでミャンマー連邦商工会議所連盟
    が招待してくれた。この時の見本市には、日本の政府関係者は誰も出席していない。

2.活動にあたって工夫、留意したこと

 現在、ミャンマー連邦は同国国内に人権的な問題があるとして、アメリカを中心とする欧米諸国の一部により経済制裁を受けている。日本政府もアメリカ等の意向に同調し、医療活動、麻薬対策、井戸掘りなど人道に関する分野を除き、経済支援を原則的に中断している。このために、ミャンマーは活路を隣接する中国、インドに求め、両国とは現在良好な関係にある。
 また、ミャンマーは世界の最貧国のひとつに数えられるほどに、国家の外貨準備高が極端に少ない。2005年度の準備高は7億7千米ドルで、年間必要準備高の1ヵ月分程度に過ぎないといわれている。国民の平均月収は、地域により差があるが2千円ないし6千円程度で、ヤンゴン市内の1家族の生計費は、我々がヒアリングした範囲では1万5千円位とのことである。
 しかし、摩訶不思議なのは、日本製の中古車の値段が2百万円から3百万円で取引されており(20万円ではない)、ヤンゴン市内では渋滞がしばしば見られるほどであることである。

  ヤンゴンのマハバンドゥ―ラ通り


 いずれにせよ、ミャンマーと日本との経済格差は歴然としており、我々がミャンマー側から報酬を得て活動することは正鵠を射った事柄ではない。それ故、日本政府からの活動資金を期待することになるが、日本国は経済支援を中断しており現状ではそれは期待できない。
 したがって、我々が活動をすることは手弁当な仕事になる。ミャンマーの将来性を信じ、同国の国民性が好きではなくては行動できない。ちなみにミャンマーの面積は日本の1.8倍、人口は5,600万人、天然ガスや宝石を始めとする豊富な地下資源、余力十分な農水産・林業資源がある。

3.業務遂行上、中小企業診断士として意識したこと

 ミャンマーでは、ミャンマー連邦商工会議所連盟(UMFCCI)が唯一の全国的な経済団体であり、ヤンゴン、マンダレー等の主要都市、モン州、タニンダーリ管区など各地に地域商工会議所がある。ミャンマー連邦商工会議所連盟は、日本商工会議所と「ミャンマー・日本商工会議所ビジネス協議会」(代表U Win Myint, 日本側代表室伏 稔氏)を設けており、相互に訪問し研究大会を開催している。過去ミャンマーで3回、日本で3回大会を開催し、2回目の日本側開催では、我々のグループは(社)神奈川県経営診断協会(通称経診)と共催し、横浜市内での工場視察、交流会を設けた。さらに6回目の大会では、経診と共に診断協会神奈川県支部の協力を得て、同じく横浜市で工場視察と交流会を開催した。同じ時に、別に東京支部国際部は平塚市で工場視察などを行っている。また、平成15年には研修ミッション(団長安田平八氏)を派遣している。
 1回目のヤンゴンの大会では、私が最初に質問に立つことになり、中小企業診断士をアピールした。さらに3回目の大会では、当時のジェトロバンコクセンター所長大辻義弘氏が発表され、内容の大半は日本の中小企業診断制度についてであった。司会者から私に質問の指名があり、中小企業診断士であることを告げると、大辻氏はびっくりされ喜んでくれた。
 意識する、しないにかかわらず、ミャンマーに関する事業では診断士の立場で行動している。しかし、ミャンマーの地方で工房内に入り経営指導の話をしようとすると、同国では経営コンサルタントの職業の存在を知る人はほとんどいないため、商品を仕入れにきた業者がいろいろ注文を付けていると勘違いされる場合が多い。

4.ミャンマーにおけるコンサル業務の留意点

(1)アメリカによる経済制裁の影響
  ミャンマーを始め発展途上国では、経済格差の問題もあり、日本人コンサルタントに見合う報酬を払うことは不可能に近い。したがって中小企業診断士の多くは、ジャイカやジェトロなどの日本政府の関連機関から派遣されて活動している。
日本政府は、ミャンマーに対する経済支援を現在凍結しており民間企業に頼るしかないが、日本の有力企業はアメリカを主要マーケットにしているところが多く、ミャンマーに経済制裁を課する同国からの反発を考慮して活動することになる。それ故、現状では資金援助(コンサルタントフィー)を日本企業から期待することはきわめて難しい。

(2)身分格差と女性の地位の高さ
 ミャンマーではイギリス支配時代の影響を受けて、経営者と従業員の間の身分格差は歴然としている。経営者が現場に入ることはほとんどない。率先垂範という考え方は、同国にはないといっても過言ではない。さらに、他人の職分に分け入ることもない。ということは、決められた仕事以外は従業員はほとんどしない。
また同一業務では男女間の賃金格差はない。以前、仲間の診断士が男女の賃金格差にについて経営者に質問したことがあったが、経営者は何のことか直ぐには分からず、きょとんとされていた。ミャンマーでは女性の地位がきわめて高い。
ちなみにミャンマーでは姓がなく、名前があるのみである。反政府活動で知られるアウンサンスーチー女史の場合、アウンサンを苗字、スーチーを名前と日本人の多くは勘違いしている。アウンサンスーチーでは長すぎるので、日本では単にスーチーさんと呼ぶことが多い。スーチーさんはミャンマー独立、建国の英雄といわれたアウンサン将軍の娘である。
ミャンマーでは普通名前の前にウー、ドーなどを付けるが、ムッシュー、マダムなどと同様な意味の敬称である。私はミャンマーでは、同国人のようにU Aung Moe (ウー・アウンモー)と呼ばれている。男性にはマウン、コー、ウー、女性にはマ、ドーの呼称がある。それぞれ年の若い順の呼び名で、日本語のちゃん、君、さんと同じように考えてもよい。

(3)インフラ整備の遅れと品質管理
ミャンマーで経営指導する場合、電力事情の悪さ、輸送手段の整備の遅れを頭に入れてから取り掛からなくてはならない。中国がしきりにミャンマーに経済援助を行い、10年前と比べると格段に整備が進んだが、いまだに不十分である。ミャンマー人の人によくいわれるようになった。「中国がよくしてくれるので、もはや日本には期待していませんよ。」
電力事情の悪さにより、品質の安定した製品はなかなかできないし、輸送手段の貧弱さにより、生鮮品などの鮮度管理は十分に行うことは難しい。また南国特有のおおらかさ故に、日本人のような品質という概念は、ミャンマー人にはほとんどないと考えてもよい。


5 ミャンマーにおける中小企業の現状及び特質

 ミャンマーでは、日本で見られるような巨大企業は存在しない。けれども市場経済化の恩恵を受け、いくつかの企業グループが形成されている。日本の主要地方都市で見られる、中堅企業の企業集団のような存在である。
 ミャンマー産業の現状は、昭和30年代初頭の日本企業の様相に近い。ようやく近代化の軌道に乗ったばかりである。軌道には乗ったものの、動力不足で加速できないでいる。アメリカの経済制裁による外貨不足の影響である。外貨不足より、中小製造業が外国から資材を購買しようとする場合、政府の政策を優先する余り資材を手当てできないこともありうる。ミャンマーでは国内で入手できる材料を使った製造業の方が、生産する場合の安定性が高い。
 ミャンマーの現状は、近代的な設備を備えた企業は非常に少なく、1次産業や縫製業、木工業のような労働集約的な産業、原材料加工型の企業が中心である。
6 次に取り込む課題等

 ミャンマー経済の将来性は大きいものがあるが、現況ではコンサルタントや中小企業診断士が活躍できる場はきわめて小さい。ミャンマーに進出しようとする企業は少なく、コンサル依頼はほとんどない。また、日本政府やその関連機関のミャンマーに対する経済的支援は、優先度の低いものとなっている。現在ミャンマーに常住する日本人は約600人で、ヤンゴン(ミンガラドン)空港に降り立つ日本人は年間で約2万人に過ぎない。隣国タイの60分の1である。
 したがって、中小企業診断士としてできることはミャンマーに対する認知度を高め、ビジネス機会の拡大を図ることである。そのために我々のグループでは経済使節団の派遣、交流会の開催等を行って来た。今後の課題としては、ミャンマーからの研修生を日本企業に紹介し、習得した技術を同国に持ち帰ってもらって、ミャンマー企業の技術の向上を図ることである。

パソコン研修の様子 平成17年3月

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