提言―ミャンマーの観光振興策

                                                                                     
                                                                                    関東学院大学非常勤講師
                                                     中小企業診断士  都 築   治
ミャンマー観光振興の前提
  ミャンマー経済の問題点の多くは外貨不足に起因している。それにより、ミャンマー政府は的確な諸政策を打ち出せないでいるのが現実である。
  外貨不足を補う最も効果的な方法の一つは、外国人観光客を迎え入れることである。観光客を受け入れることは、外貨を国外に流出させることなく外貨を増やす最良の方法である。
  ミャンマー政府もこの点はよく理解されており、96年11月からを観光年とし、外国人観光客の誘致策を図ったことがあった。そのために、ヤンゴン、マンダレー、バガンなど主要地のホテル事情等は格段に向上した。
 然しながら、欧米のマスコミ等の輿論に訴える著名な女史の影響が大きく、観光振興による国づくりはうまく機能しなかった。彼女は外国の経済援助、観光客の受け入れにについては、現政権を助けるのみであるからとして、現在に至るまで一貫して反対しているとのことである。また、各メディアの一面的な報道により「国内で騒乱がしばしば起こっており、物騒で怖い国」、というイメージを払拭できないでいる。

ミャンマーの観光事情
(1) ミャンマー観光の現状






























  日本人観光客は97年をピークに減少傾向が続いたが、2001年を底にようやく歯止めがかかった。2002年度の  日本人入国者は20,744人で、ラオス(19,801人)とはほぼ同数、カンボジア(96,796人)の五分の一、ベトナム(279,769人)の十分の一以下。
   フランス、ドイツなどからの観光客数は増加傾向にあり、アメリカ、イギリスからは微増傾向にある。


   吸引力は人口に比例し、距離の自乗に反比例すると言う地理学上の法則がある。
この法則からは、日本よりもアメリカからの観光客の方が実質的に多いことが窺われる。
2002年度のアメリカ人入国者14,477人。


   国内各地への交通体系や、宿泊施設などは徐々に充実して来ている。
 私が最初にミャンマーを訪れた時は、エーヤワディー川には2本の橋が架かっていたのみであったが、現在では、10本以上架かっているとのことである。
   ほとんどが中国の援助である。日本にはもはや期待していないとのミャンマー人の声をよく耳にする。
 その他、各地を結ぶ道路網は整備されつつあり、パテインなど地方空港の整備も進んでいる。マンダレー新空港は、東洋一長い滑走路としてすでに開港している。

   ミャンマー各地の商業地では商品が豊富に出回っており、世界の最貧国のイメージはほとんど感じられない。   中国との国境の町ムセでは、何百台に及ぶ車が通関待ちで混み合っている。大型トラックは一日でエーヤワディー川上流の港町バモ−に、一昼夜でマンダレーに着くことができる。

   ミャンマーは数多くの名所旧跡に恵まれている。
   ミャンマーは歴史的遺産であるバガン、ピィ(タイェキッタヤ)、ミャッウ、バゴー(ハンタワディー)などを始め、ヤンゴン、マンダレー、チャイッティーヨー、モンユア、インレー湖などの名所、ナバリ、チャウンターなどのビーチ、ピンウールウィンヤン、カローなどの 避暑地他、数多くの観光に適する名所が各地にある。

    メコン圏の各国では、世界各地から協同して観光客を迎え入れようとしている。
   ミャンマーでは強制両替の中断など、受け入れ態勢は少しずつ向上している。
(2) ミャンマー観光の問題点












   外国人観光客の絶対量が少ない。
   ラオスの三分の一、カンボジアの二分の一、ベトナムの十分の一以下。年間外国人の各国入国者(2002年度)はミャンマー217,212人、ラオス735,662人、カンボジア522,573人、ベトナム2,627,988人。

    物騒で怖い国と言うイメージが、日本国内では相変わらず流布している。

    ミャンマーについて、日本人のほとんどが「スーチーさん」以外は知らない。少し知っている人で、「ビルマの竪琴」、先の戦争で「日本人兵士が沢山死んだ所」程度である。

   日本人観光客を受け入れる基本的姿勢が不明確である。

   観光地への交通体系、宿泊施設などは充実してきているが、適切なゾーニングが行われていない。

振興策
(1)

























(2) ア















(3)  ア




































(4)






























観光国としてのイメージアップと統一性(CI)
   世界で最も安全な国の一つであることを強調する。
  ミャンマー旅行について友人らに尋ねると、異口同音に「あんな物騒で怖い国に行かないよ」と言う答えが返ってくる。
   ミャンマー国内の犯罪率は、日本が世界で最も安全な国であると言われていた頃、統計上では日本の七・八分の一の少なさであった。ヤンゴンを始め各都市では、東京や横浜、私が現在住んでいる  厚木市  よりも、はるかに安心して市内を歩くことができる。
   「軍政が押さえ込んでいるから、治安の良いのは当たり前だ」と知人の多くは答えるが、ミャンマーの犯罪率の小ささは、幼少の頃からの仏教の教え(輪廻転生)に基づいている。また、通常の日本人が行くような地方各地も、安全性に問題はないと断言できる。
   なお、各地とも軍事関連施設以外の写真撮影は、ほとんどOKである。私はカメラやバッグを何度も置き忘れたが毎回必ず戻って来たし、車で追っ掛けて届けてくれたことさえある。   犯罪発生率が高いと、観光客は極端に減少するものである。ミャンマーの観光振興のためには、ミャンマーは治安が良く、安心して行くことができる国であることをもっと強くアピールする必要がある。

   ミャンマーは世界有数の親日国で、観光客をやさしく迎え入れてくれることを強くアピールする。
   簡単にはミャンマーには行くことができない、と思っている日本人が予想以上に多い。PR不足だからである。強圧的な国で北朝鮮と同じような国、と多くの日本人が思い込まされている。
   ミャンマーは社会主義の憲法をすでに破棄しており、現在ではもはや社会主義国ではない。かつての社会主義も「バマー式社会主義」で、マルクス・エンゲルスの共産国とは一線を画していた。そのために久しく鎖国政策を取っていたことがあった。その影響があり、神秘の国と言われ、容易に渡航することができない国であった。   有名な南機関の活躍があり、イギリスから独立できたのは日本のお陰と思っているミャンマー人も多く、多くのミャンマー人は極めて親日的である。また、上座部仏教の教えにより、見知らぬ他人にもやさしく接してくれる。 ミャンマーはスローライフに相応しい国で、多くの外国人観光客をゆったりと受け入れてくれる。このミャンマー人の国民性を強くアピールすることが、ミャンマーの観光振興のためには必要である。

標的の明確化
   日本の若い女性を標的とすること。
   まず狙うべき標的は、日本の若い女性である。日本の若い女の子は旅行好きで、とりわけ東南アジアに興味を持っている人が多い。若い人たちを標的とすることによって、大幅にイメージアップを図ることができる。若い女の子でも安全というイメージである。
   私はマンダレーやヤンゴン空港で、若い女の子たちにミャンマーの感想についてよく尋ねるが、総じてミャンマーの評判は良好である。多くの子たちが「東南アジアの中で一番良かった」と言ってくれる。なかでもインレー湖の評判が良いようである。
   このように、若い女の子の行く観光地というイメージづくりが大切である。

   家族客を標的とすべきこと。
   ヤンゴンやマンダレーにはカラオケやディスコはあるが、他所の国で見られるような歓楽街はない。男性客の多くは物足りないと言うが、今や歓楽街が存在しないことが貴重な存在ですらある。そのために日本のやくざ屋さんや、台湾や香港のマフィア等も目立った活動をしていない。
   家族客が多く来ることが安全な国であることを知らしめる。安全で楽しい所というイメージが強まると、観光客は飛躍的に増大する。そのためには、家族で行くべき所というイメージを高めることが特に大切である。

観光地の整備
   滞在型の観光へ ― ショッピングやグルメ情報の充実。
 若い女性客や家族客を満足させるには、ショッピングやグルメが大切である。この点に関しては、ミャンマーの現状は余りにもお粗末である。美味い食べもの、すばらしい商品があるのにも関わらず、まったくと言ってもよいほどアピールしていない。
  ミャンマーの人たちはサービス精神が旺盛で、これでもかという具合に、色々な仏教史跡に案内してくれる。その結果、仏教の知識に乏しい日本人の多くは消化不良を起こしてうんざりし、かえって印象の乏しいものとなってしまっている。何ごとも、腹八分目が大切である。
  一ヶ所の観光地では、余り沢山の見所を回らない方がむしろ良い。その地の雰囲気を十分に堪能してもらい、お客さまの自発的意思によるショッピング、ティータイムなどへと巧妙に誘導すべきものである。旅行の楽しみの多くは観光地巡りにあるが、ショッピングや食べ物も大きな要因となっている。
  そのための推薦すべき店の案内が余りにも少ない。旅行会社お仕着せの店舗に連れて行くのみで終わってしまっている。旅行会社のお仕着せではなく、ガイド氏の個人的紹介によって、自分の意思でその店に行ったと思わせる雰囲気づくりが大切である。
  例えばバガンの漆器店など、旅行会社推薦の店以外に素晴らしい商品を扱っている店も多い。ヤンゴンではインド料理やタイ料理の美味くて安い店があるし、オーダーメードでスーツやYシャツを頼むと、その安さを考慮すると十分満足できるものを手に入れることができる。私はオーダーメードで、立ち襟のシャツを500円で、スーパー180のスーツを12,000円でオーダーしている。衣料品に詳しい人ならば、スーパー180がいかに素晴らしいかはご存知である。
  また、日本の旅行会社もレストランや飲食店に助言し、容器等を雰囲気のあるものに替えさせる必要性が多分にある。食事はムードを味わってするものだからである。

   観光地域のゾーニングを行い、魅力ある観光ルートを提示する。
  現在のミャンマーの観光旅行では、仏教史跡やインレー湖などをあわただしく回るだけに終わってしまっている。観光地のゾーニングが上手くなされていないために、駆け足的な観光となってしまっている。そのために、ショッピングやレジャーなどで費消される外貨の量が少ない。
   滞在型の観光にして、お金を気持ちよく使っていただける工夫がぜひとも必要である。そのためには、観光地のゾーニングを的確に行い滞在型の観光にし、地元住民からも喜ばれる観光を目指すべきである。
  ミャンマーは象が多い。私はすでに20回程ミャンマー訪問し色々な観光地を訪れているが、残念ながら、未だに象を見に行こうと言われたことがない。隣国タイでは、効果的に象を活用して外貨を稼いでいる。なお、ミャンマー中央部の都市チャウセーは象祭りで有名である。
 トレッキングやバードウォッチング、海洋レジャーなど、エコ型のツーリズム候補地はミャンマー国内には沢山ある。 具体的なゾーニングは、古代遺跡探索ゾーン、仏教史跡鑑賞ゾーン、グルメと民芸品・工芸品ゾーン、バードウォッチングと森林浴ゾーン、象と高原散策ゾーン、少数民族ふれ合いゾーン、寛ぎゆったりビーチゾーン、島巡りとダイビングゾーン、宝石採集探索ゾーン、少しあぶない国境ゾーン、ミャンマー伝統お祭りゾーンなど、さらにネーミングを洗練しルートづくりを適切に設定すれば、予想以上に面白い観光ルートづくりができ上がるであろう。

観光客の誘致策
   テレビを活用する。

   ミャンマーに行く観光客が少ない原因の一つは情報不足である。情報不足によりミャンマーの魅力が伝わっていない。 
   何年か前、タレントの美川憲一氏が、テレビの番組でチャイッティーヨーパゴダを訪れたことがあった。それ以来ゴールデンロックの名前が、ある程度日本人の間で知られるようになった。最近では、TBSテレビやテレビ東京がミャンマー番組を放映し、ミャンマーの認知度が高まって来ている。特にインレー湖の評判が良いようである。    このようにテレビで放映してくれると、ミャンマーの観光の魅力が高まる。また安心して行ける国だと言うことが伝わる。
 
   先年、ミャンマーではヨーロッパのマスコミ関係の人たちを、航空費相手持ちで招待し、その結果、怖い国というイメージを幾分か和らげることができたとのメディアの報道があった。マスコミを敵とするのではなく味方にすることは、イメージアップのためには効果的である。日本でも、最近上記のようにテレビのミャンマー対象の番組が増えて来ている。
   ミャンマー政府も積極的にメディアを有効活用すべきである。

   一般女性誌を活用する。
  女性誌はファッションやグルメ、旅行情報が中心の内容のものが多い。ベトナムやタイ、バリ島、オセアニアなどの諸国は常に誌上を賑わせているようである。私は女性誌を読まないので詳しいこと分からないが、ミャンマーに関連する内容のものはほとんど掲載されていないように思われる。

  記事として載せてもらうようにするとともに、日本の旅行会社もミャンマー旅行の案内広告ぐらいは出してもよいはずである。旅行会社のパンフレットですら、ミャンマーに関するものは極めて少ない。ここにも、人権だ、正義だ、民主主義だと言うほとんど実体のない輿論に気兼ねした、各会社の論理が垣間見える。ミャンマーは世間の人が考えるほど悪い国ではない。

  女性誌の多くは政治とは無関係である。ここに着目して、一般女性誌に集中してPR活動を行うとより効果的である。ミャンマー国内の取材については、マスコミ関係だからと言って締め出すのではなく、むしろ優遇して、積極的に協力する姿勢がミャンマー当局には望まれる。
4 まとめ
   ミャンマーは現在アメリカを始めとする多くの欧米諸国から、謂われない経済制裁を受けている。ここではその是非を問わないとして、ミャンマーの経済発展のために観光の視点でできる効果的な対策を考えてみたい。

 ミャンマー経済発展のためには、外貨の準備高確保とインフラの整備が欠かせない。そのためには、観光事業の振興が最適である。ミャンマー当局は、このことについては十分に承知されているが、観光客誘致の効果的なシナリオが描ききれていない。

 観光客が多数来ることによってインフラの整備が進行する。また、ミャンマーに対する理解度が高まる。それにより、経済制裁緩和の可能性が高まって来る。

  観光客により多く通貨を使って頂く方法は、回遊型の観光ではなく、滞在型の観光を考えるべきである。

  観光振興についての具体的な方策は、@ミャンマーは安全な国で、観光客をやさしく迎え入れてくれる国であることを強くアピールする、A標的とすべきお客としては、日本人の若い女性・家族客が最上である、Bグルメやショッピング情報を充実し、滞在型の観光を目指す、C観光地のゾーニングを的確に行い、魅力ある観光システムを確立する、Dマスコミを有効活用し、ミャンマーの情報量の拡大と理解を深める、などが考えられる。